投稿日:2023.3.3 最終更新日:2024.5.2
司法書士 権藤 健裕
相続人は兄弟と甥と姪
公正証書遺言を作成していた方が亡くなったとのことで、相続手続きの依頼をいただきました。
亡くなった方は配偶者を先に亡くされ、子供がいない方でした。
長く一人暮らしをされていたそうです。
ご両親はかなり前に亡くなっておられ、兄弟の中にも亡くなっている方がおられました。
このような場合、亡くなった方の兄弟と、先に亡くなっている兄弟の子(甥・姪)が相続人になります。
相続人は兄弟と甥・姪で合わせて10名ほどでした。
公正証書遺言作成後に相続人の変化
遺言書の内容は、生前にお世話をしてくれていた姪1人にすべての財産を「遺贈」するというものでした。
「遺贈」するという遺言を作成することによって、法定相続人以外の人にもその方の遺産全部(または一部)を渡すことが出来ます。
その遺言書を作成した当時は依頼者の母親が生きておられました。
遺言者が亡くなった場合、母が相続人となる予定であり、依頼者は推定相続人ではありませんでした。
だから、「相続させる」ではなく「遺贈する」で作成したのだと思います。
しかし、依頼者の母が遺言者より先に亡くなった為、依頼者は相続人になりました。
相続人に遺贈することは可能です。
相続人であることを証明すれば、不動産登記の登録免許税も安い相続登記と同額になります。
遺言執行者がいない
遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を実現するために手続きをする人です。必要な場合は遺言書で遺言執行者を指定していることが多いです。
困ったことにこの遺言には遺言執行者の指定がありませんでした。
遺言執行者がいなければ、遺贈による不動産の所有権移転登記手続きに他の相続人全員の協力が必要となります。
全員の協力を得るのは困難な事情がありました。
相続人の中には会ったこともない方や行方不明者、海外にいて連絡をとれない方、意思能力に問題がある方がいる場合もあります。
結論としては家庭裁判所に私を遺言執行者に選任してもらい、遺贈の手続が出来ました。
遺言執行者の選任について他の相続人の同意書を家庭裁判所に提出する必要があったので、結構な時間と労力がかかりました。
期待していた相続財産を受け取ることが出来なくなる他の相続人を説得するのは結構なストレスだったそうです。
※令和5年4月1日の法改正により、相続人に対する遺贈登記の手続きが簡略化されています。現在、他の相続人の協力は必要ありません。
不動産登記法第63条3項 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。
遺言書を作っていたおかげで姪は財産を相続することが出来ました。
ただ、遺言書の書き方を専門家がアドバイスしておけばもっと簡単な手続きで済んだはずです。