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不動産登記

長年にわたり放置されている抵当権(休眠担保権)の抹消

投稿日:2023.4.3 最終更新日:2023.10.30
司法書士 権藤 健裕

100年以上前に設定された抵当権の抹消

明治時代に設定された抵当権の抹消依頼をいただきました。
依頼者のご先祖が「100年以上前にお金を借りた時に設定した抵当権」の登記が残ってしまっているということです。
このような抵当権を一般的に休眠担保権と呼んでいます。
抵当権者(お金の貸し手)は個人名でした(Aさんと呼びます)
返済は終わっていると思われるのですが、返済が完了したことを証明する書類は残っていません。
結構昔、この抵当権抹消にチャレンジされたそうですが、上手くいかなかったそうです。
すぐに困る状況ではありませんが、将来不動産を売却したり、不動産を担保にして銀行から借り入れをする場合にはこの抵当権を抹消することを求められます。
放置しておけば相続人が困ることになるかもしれません。
依頼者は子や孫に迷惑をかけたくないとの理由で今度こそ、この抵当権を抹消することを決意されました。

休眠担保権の抹消方法

通常、抵当権抹消は権利者(不動産所有者)と義務者(お金の貸主)が共同で管轄法務局に申請することにより行います。
ご先祖様がAさんに返済した時に協力して抵当権を抹消しておけば通常通りの申請で大丈夫でした。
今回のように古い抵当権抹消の登記義務者(個人のAさん)は亡くなっていると予想されます。
本来ならば、Aさんの相続人を調査した上で、相続人全員に協力をお願いして不動産所有者と相続人全員が共同で申請します。
相続人は相当な大人数になることも予想されますが、仕方がありません。

行方不明の抵当権者

休眠担保権の問題は抵当権者(または抵当権者の相続人)を調査しても見つけることが出来ないケースが多いことです。
抵当権者の住所と氏名は登記されています。登記されているのはその当時の住所と氏名です。明治時代からのAさんの住所がそのまま残ってて、その場所に親族が住んでおられるのであれば相続人を探すことは可能かもしれません。
ただしこのようなケースにあてはまることは滅多になく、明治時代の住所氏名から手がかりを得られることはあまりありません。
Aさんの登記されている住所は現在存在しない地名であり、正確な場所の特定は出来ません。
こうなると住民票や戸籍の調査で判明しなければ、探すことは困難です。
今回のAさんは私たちが出来る限りでの調査を行いましたが、手がかりも見つけることは出来ませんでした。

供託による休眠担保権の抹消手続き

抵当権者Aさんについて調査した結果手がかりが見つからなかった(行方が知れない)ため、元金・利息・遅延損害金を法務局に供託して、抹消する方法を選択しました。
この当時の借入金は100円以下のものが多いので、現在までの利息・損害金を加算しても供託金額は数千円以下です。
明治時代の100円と現在の100円では全く価値が異なるのですが、それを考慮する必要はありません。
この方法を使うには条件があります。
1.要件に該当する担保権等である
2.担保権者の行方が知れない
3.債権の弁済期から20年を経過している
4.債権の元本・利息・遅延損害金の全額に相当する金銭を今日(法務局への申請日)供託したことを証する書面を添付する

法務局との打合せ

上記の条件に該当するとしても、この特例による抵当権抹消を申請するには事前に法務局との打合せが必要です。
まず申請する日を決め、供託する金額や供託書の記載内容について確認をします。
供託金の計算には法務省が提供しているソフト「遅延損害金計算ソフトウェア」を使用すると便利です。

困難な抵当権抹消に検討すべき制度

法務局に申請するまでの準備に結構時間がかかります。担保権者の行方が知れないことの証明方法について悩んで作成した部分もあり、抵当権抹消登記が完了するまで心配でした。
結果的には何の問題も無く、無事抵当権を抹消することが出来ました。長年不安を抱えておられた依頼者には大変喜んで頂きました。
この制度が無ければ抵当権抹消に必要な作業は何倍も大変になるはずで、依頼者の費用負担も重くなってしまいます。
抵当権者に迷惑がかかる訳でもなく、この供託による休眠抵当権抹消制度の存在は本当に有難いと思います。

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